写真で見るプレバト俳句添削(26)-6月30日(2)ー

今回の後半は、篠原麻里子、藤モン、梅沢富美男の3人、お題はキッチンカーです。

キッチンカープレバト俳句添削

原句 万緑や多様性なる人の色 篠原麻里子(特待生2級)

篠原さん:キッチンカーって、昔と比べて多様性が出てきたので、多様性に焦点を当てました。

梅沢さん:多様性となると難しいと思うんですよ、俳句にするとなると。
藤モン:多様性ってなかなかチャレンジングーや思いますけど。

夏井さん: この句のポイントは、中七「多様性なる」という措辞の是非です。

浜田さん: 現状維持! 先生から「気負いすぎ」

夏井さん: 俳句として17音に収めるには、大きすぎるテーマを握りしめてしまったかな、とそんな感じですね。あなたの伝えたいことと意味は全然違うんですが、例えば色んな多種多様のものでこの世界は出来上がっている、ということを、何か一つでも具体的な映像で表してみる、と読み手も近寄って来れるのでは。例えば、

添削 万緑や百の国旗の色いくつ

万国旗ープレバト俳句添削

こうした例えから、この人は多様性を詠みたかったに違いない、と読者を導く。その仕掛けが難しいんだけどね。

游々子: 抽象的な言葉をそのまま使うのは、俳句にはNGである例でした。本当にそうかと思い、例として、”諸行無常” という抽象語がそのまま使われている俳句はないものかと、調べたところ、現代俳句協会の会員の方の、”そのおとも諸行無常のふうりんよ” という一句だけが見つかりました。あとは夏井さんが言うように、”夏草やつわものどもが夢の跡” のようなものばかりでした。現代俳句協会員さんの句が良いかどうか、判断できないのですが、”諸行無常” を使うとすれば、平家物語の冒頭の2行に掛けなければ有り得ないと思います。游々子が無理やり作ったものは、「祇園には諸行無常の花のあり」というものです。


原句 雲の峰ぱんっと乾いたピザの薪 藤モン(名人10段)

ピザ窯ープレバト俳句添削

藤モン: 天気の良い日に子供と公園に行ったら、キッチンカーがあって、本格的なピザ窯が備わっていた。すごいな~と見てたら、横に乾燥した薪があった。

夏井さん: この句のポイントは、中七のオノマトペ「ぱんっ」の是非です。

浜田さん: 2つ前進! 先生から「読み手の五感を刺激している」

夏井さん:先ず雲の峰という夏の季語から入って来ますね。夏の入道雲のことですね。当然見上げる視線、広い映像をここで確保しますね。そのあとに、”ぱんっ” という、何がぱんっなのか判らない言葉が出てくる、そして、”乾いた” と続く、何が、と思う。ピザが出てくる、えっ食べ物なの、薪が出てくる。言葉の誘導が巧みです。ピザの薪まで読んだ瞬間に、この現場にワープしますね。”ぱんっ” というのは、読者の側が追体験するためのスイッチをポンと入れる効果を持っているのですね。いや~気持ちの良い句。これからピザを食べる度に、私はこの句を思い出します。

藤モン: 思い出して下さ~い。この2年半で一番嬉しい!

游々子: 夏井さんは、言葉によって映像が少しずつ進んで行くことを、評価の重要ポイントとしていますが、私はそうは思いません。そのことを重要ポイントとするなら、俳句は絶対にスローモーションの画面が切り替わっていく動画に太刀打ちできないからです。俳句のように短い詩においては、夏井さんが言うように、一字一字読み進めるのではなく、17音を一瞬にして把握するものです。それによって脳におきる化学変化で、気持ちよくなるものを名句と呼んでいるのです。

以下は蛇足ですが、藤モンが見た薪は、映像では杉の角材になっていました。これは誤りで、薪ストーブもそうですが、ピザ窯も煙突に煤を付けないように、薪はナラやクヌギといった広葉樹が使われるものです。


原句 祭果て開くや風の通り道 梅沢富美男(永世名人)

夏井さん: 祭が夏の季語。祭には春夏秋の3種類あるが、春と秋は農耕の祈りと感謝で、夏のは、悪疫退散の意味を持っています。夏の祭が果てると、この句は、何かが開くというんです。”や” という切れ字はすぐ上の言葉を詠嘆する。お~開いたよという詠嘆、祭が果て何が開くのだというと、風の通り道がさあ~っと開く。悪疫が退散して祈祷するお祭が終わって、風の通り道がすっと出来て、そこには清々しい気持ちの良い清浄な風が動き始める、こういうところが、この季語をちゃんと押さえた上で使っている、ということになります。

游々子: 季語の意味合いを押さえた名句です。京都の葵祭も祇園祭も夏の祭りで、発祥は疫病対策であったそうです。葵祭の由来は、なんと平安京遷都より200年以上前の欽明天皇(聖徳太子の祖父)の時代にまで遡れるそうです。

葵祭ープレバト俳句添削