満蒙への道(25)ー北進南守か南進北守か(3)ー

海ゆかば八十年の夏の雲  游々子

今からもう13年前のことになりますが、2009年8月、NHKは3夜連続で「海軍反省会」というスペシャル番組を放映しました。この番組は、戦後も35年を経た昭和55年より11年間に渡って131回の ”反省会” が旧海軍将校の社交場であった水交社で開かれていた、その400時間におよぶ録音テープをNHKが入手・編集し、解説を付けて放映したものです。出席者の最高階級は中将で、中佐・大佐・といった佐官クラスが中心でした。その佐官クラスも海軍軍令部に所属していたエリートが大部をなし、将に対米戦争を企画し遂行した実務レベルでの責任者たちによる反省会でした。

多くの証言の中で際立ったものは、軍令部の中で最も対米強硬論を主張していた第一委員会のメンバーによる証言でした。その証言をした元大佐は、対米強硬を主張したのは、そのような論を主張することで、より多くの予算を獲得するがためであって、対米戦争を想定していた訳ではない、ということをサラリと言ってのけていました。

予想通りの証言内容で、驚くことはなかったのですが、問題なのは、誰一人として敗戦責任を国民に謝罪することがなかった、ということです。組織益を負け戦につなげてしまった、その謝罪の表明なしに当事者たちが居なくなってなってしまったことで、歴史に区切りをつけることが出来ず、返す返すも残念なことになりました。

日露戦争以降の ”南北併進” は軍部の組織益を求めることから出た進路方針でした。”南北併進” が成功した例は、古今の歴史の中にありません。三国志においても、呉の孫権が皇帝に即位したとき、蜀の中では呉を討つ(南進)という論が大勢を占めましたが、魏に対して北伐(北進)の準備を進めていた諸葛孔明がこれを認めることはありませんでした。こんなことは軍人たちは百も承知していたはずですが、自分の利害が絡んでくると盲目になってしまう、人間の弱さが肝心な処で出てしまい、取返しのつかない悲劇となってしまいました。

NHKスペシャル 日本海軍 400時間の証言 DVD-BOX 全3枚
(nhk-ep.com)より