添削(11)ーF.Yさん しおさい会(3月)ー

原句 水平線やや膨らみて水温む

水温む、確かに海も膨らんでいるように見えますね。それは春のこの時期、心も膨らんでいるから、海もそのように見えるのでしょう。俳句としては、中七の「やや」が散文的です。膨らむと、直接的に表現せずに、具象でもって水平線が膨らんで見えることを表現してみてはどうでしょうか。「水平線白き帆影や水温む」。ひょっこりひょうたん島のパロディとして、「水温む丸い地球の水平線」。

参考例 水温む太平洋や龍馬立つ


原句 初蝶に釣られ連れられ切通し

句意は、切通しを歩いていると、先に蝶が飛んでいて、それを追うように登っていった、ということですね。中七でそのことは理解できますが、中七の「釣られ」は無理な表現です。普通に表現した方が良いです。「初蝶のあと追て登る切通し」

参考例 胡蝶舞ふ兵(つわもの)どもが切通し


原句 島の春細波の中に風を聴く

中句が8音になっています。下五の「聴く」は散文的です。句としては、春、波、風を並べただけのものになっています。句を詩的にする工夫が必要です。細波(ささ波)から連想されるのは、万葉の時代から志賀であり琵琶湖です。柿本人麻呂は、”ささなみの志賀の唐崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ” と詠んでいます。また琵琶湖周航の歌では、”さざなみの志賀の都よいざさらば” と歌われています。細波を使うのであれば、こうしたことを連想させるようにするのが得策です。

参考例 さざ波や春を浮かべる竹生島