添削(9)ーM.Sさん しおさい会(2月)ー

原句 手話の祈り父へ届けん雪解風

句意は(おそらく)、生前手話で会話した父に、今また手話で語りかけている、語りかけるというのではなく祈っている。折からの雪解風に乗せてこの祈りを伝えてほしい、というものです。この雪解風に、私はアニミズムを感じます。また、この句からは、昭和29年に菊池章子が歌った岸壁の母の二番の歌詞、悲願十年この祈り 神様だけが知っている、、のあとのセリフ「ああ風よ 心あらば伝えてよ、、」を想起します。素晴らしい一句です。直すところはありません。

(注)本句は添削者3名から特選を得る優秀句となりました。


原句 傘立てに落ちし木の芽の一滴

木の芽(このめ)が芽吹の子季語となっています。滴は落ちるものなので、中句の「落ちし」は、別の言葉を探したほうが良いでしょう。

参考例 蹲(つくばい)の紋や木の芽の一滴


原句 ゼロ磁場に神々揃ひ四方の春

ゼロ磁場とは、重なり合った地層が、相反する方向への力を受けて、磁場がゼロ状態になった場所をいい、パワースポットと考えられています。そこには神々が集っている、ということを詠んだ句です。中句の「揃ひ」は自動詞「揃ふ」の連用形で、助詞の「て」や助動詞の「ます」などに連なる活用形です。連用形で文を中止することも出来ますが、その場合のニュアンスとして、次に何かがある、というようなものになってきます。ここは終止形の「揃ふ」にして、句をここで切った方が良いと思います。「ゼロ磁場に神々揃ふ四方の春」「ゼロ磁場に神々おはす四方の春」。(おはす(終止形)でなくおはし(連用形)にしてみると、非常に違和感が生じることに気付きます。)別の方法として、神々を上五に持ってきて、連体形の「揃ふ」を使うことも可能です。「神々の揃ふゼロ磁場四方の春」。

参考例では、神々と四方の代わりに、断層崖と水を入れて、より映像の強いものにしました。

参考例 ゼロ磁場の断層崖や春の水