鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第五章 駿府(12)

取次ぎ

夜明け前の空気は、まだ冷たかった。

町は静まり、
動く者だけが動いている。

四人は、桔梗に導かれて一つの屋敷の前に至った。

城ではない。

だが、ただの屋敷でもない。

桔梗が足を止める。

「ここより先は、父の手配にございます」

朔太郎が、深く頭を下げる。

「かたじけなく存じます」

桔梗も、静かに礼を返した。

「どうか、お急ぎくださいませ」

四人は門へ進む。

ほどなくして、門の内から門番が顔を出した。

槍を持ち、目は厳しい。

「何者だ」

朔太郎が進み出て、頭を下げる。

創作小説の挿絵

「恐れながら申し上げます」

「急の儀にて、御家中の御方へお取次ぎ願いたく参上仕りました」

門番は、四人を見た。

その身なり、帯びたもの。

ただの旅人ではない。

「何の用だ」

朔太郎は、懐から書付を取り出す。

両手で差し出す。

「これに関わる儀にございます」

門番は、それを一瞥したのち言う。

「待て」

短く告げ、奥へ引いた。

門は閉じられる。

しばしの静寂。

やがて、再び門が開いた。

門番である。

先ほどと同じ男。

「来い」

それだけ言う。

四人は、門の内へ通された。

案内するのも、やはり門番である。

庭を抜け、廊を進む。

足音は、抑えられている。

やがて、一つの座敷の前で止まる。

門番が低く告げる。

「連れて参りました」

中より声が返る。

「入れ」

門番が障子を開く。

四人は、畳に額をつけるようにして伏した。

上座に、一人。

年の頃、四十ばかり。

この屋敷を預かる者である。

門番は静かに退いた。

障子が閉じられる。

主が言う。

「申せ」

短い。

朔太郎が、伏したまま言う。

「恐れながら申し上げます」

「御家に関わる大事の儀にて、言上仕ります」

書付を、両手で差し出す。

「偽の令旨にございます」

主が受け取る。

広げる。

目を走らせる。

一度。

そして、もう一度。

「……何ゆえ偽りと申す」

三之助が、伏したまま口を開く。

「恐れながら申し上げます」

「書き様にございます」

主の視線が向く。

三之助は続ける。

「言葉の置き所、名の入れ方、文の順――」

「いずれも、本来の令旨の体にあらず」

主は、再び文に目を落とした。

沈黙。

権太が、低く言う。

「この文、御家中を割るためのものにございます」

玄之助が続ける。

「さらに関東の上杉をも内より煽り、争わせ」

「その一方を駿河へ引き寄せる算段にございます」

主の顔が、わずかに変わる。

朔太郎が言う。

「駿河・相模を戦場とし」

「第二の大乱を起こさんとするものにございます」

静寂。

外で、鳥が鳴き始める。

主は、ゆっくりと書付を閉じた。

しばし考える。

やがて、顔を上げる。

「……確かか」

三之助が答える。

「間違いございませぬ」

主は、四人を見た。

その目は、すでに先ほどとは違う。

軽々に扱うべきものではないと、理解している。

「……良し」

短く言う。

そして続ける。

「承った」

一拍。

「この件、殿へ言上する」

さらに言う。

「目通りを取り計らおう」

四人は、深く頭を下げた。

道は、ここで開かれた。